ぼくは、車にのってぷらぷら走る事の多い職に就いている。
仕事中でも、車に乗っている時には好きな音楽が聴けるのは良い所だと思う。
その日も仕事中、車にのってぷらぷらと走っていた。スラッシュかデスか何かを聴いていたかもしれない。
運転中、ふと、少し遠くの建物に掲げられた看板に目が止まった。
「革」
赤い背景をバックに、黒い字で「革」と書かれた大きな看板。
思わずギョッとした。瞬間、「革命」の二文字が脳内に浮かび上がる。どうしてこんな看板が、少し前にはこんな看板なんて無かったぞと思いつつ近くまで車を寄せてみると、革製品の会社の看板だった。
2月14日。
その日はバレンタインデーという事もあり、事務員さんと所長と共にぷらぷら車で走るというイベントが行われていた。
世界中でポリティカルコレクトネスが叫ばれ、レースクイーンも廃業に追い込まれる2018年に、普段客と直接接する機会の無い事務員さんを客先に連れ回し、チョコレートを配布して売上の増加を狙っていくというイベント。
そんなこんなでぷらぷら車を走らせていると、先述の「革」の看板が見える道。
「見てください! あの看板! あの看板、どう思います!?」
仕事中、あまり自分から声を発する事のないぼくの声。
「革(かわ)?」「革(かわ)だな」
事務員さんと所長が続けて言う。
「あの看板、見てドキッとしませんでした?」
「何が?」
「……。ほら、革命の『革』ですよ!」
「? いや、カワでしょ」
こいつは何を言っているんだという口調で返される。
「レザーって書いてあるやないか」
と、所長が言うように、看板の右下には、確かに『レザー』とも小さく書かれていた。
「でも、一瞬ドキッとしませんでした? ほら、赤いし。過激派かもって。過激派アジトですよ」
マッタク話が噛み合わないうちに、訪問予定の場所に着いた。
という事を、件の看板を見る度に思い出す。
(了)