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きぐるみハードコア

【読んだ本メモ】大田俊寛「グノーシス主義の思想 〈父〉というフィクション」

グノーシス主義の思想について、背景となった思想の流れや、主要なグノーシス神話についての噛み砕いた分かりやすい解説が良かった。

グノーシス主義について、先行研究へ対する批判的な考察が興味深かった。

・表紙の絵が、ナルキッソスなのはどういうわけだろう……?と思っていたけれど、「鏡」「鏡像」というものがグノーシス神話の中でどのような意味を果たすか、といった考察が面白かった。

・副表題にもなっている、グノーシス主義と「父」との関係については、正直、あまりピンと来なかった。確かに、グノーシス神話において、至高神(父)は重要な要素であり、グノーシス神話上の救済においても大きな役割を持っているけれど、グノーシス主義が、その成立時代に社会から失われつつあった「父」を追い求めた思想である、というのは、少し違うのではないか、と思った。自分がグノーシス主義のテキストを読んで、そう感じた事は一度も無かった、という感覚もあるけれど、ぼくが読んで読んで思った事は、グノーシス神話で語られる至高神(父)というものは、「マクガフィン」に過ぎないのではないか? という事。グノーシス思想においては、悪しき此岸であるこの世界とは別の世界。彼岸の世界を欲する、という欲求が第一にあり、そのための舞台装置にすぎないのではないか。機動戦士ガンダムにおけるニュータイプという舞台装置、逆襲のシャアにおいけるサイコフレームという舞台設定にすぎないのではないか、という事。

グノーシス主義については、現存する資料の絶対数が少ない事もあり、やっぱり、研究者によってその解釈や捉え方は大きく変わってくるな、と改めて思った。

・失敗し、敗北した宗教であり、歴史上で何度も消滅しながらも、奇妙な仕方で何度も回帰してきたグノーシス主義。そのグノーシス主義という思想について、「伝統なき伝統、継承なき継承を、今日どのように引き受けるのかということは、現代のわれわれに委ねられた課題である」と〆られていたのが良かった。